ふるさとの水を守る会 顧問 野々山 登
1.はじめに
「君津環境整備センター」(以下、本廃棄物処分場)第Ⅰ期処分場は、平成24年に有害物質を大量に含有する保有水の漏出事故が発覚し、千葉県より原因を究明し改善を早急に行うこと及び改善が完了するまで廃棄物の搬入停止とするとの勧告を受けています。しかし、14年以上経過した現在においても本格的な改善ができない状態が継続しています。第Ⅰ期処分場周辺に設置した観測井戸では、塩化物イオン濃度が著しく上昇しており漏出が継続していることを示しています。
また、本廃棄物処分場の事業者である新井総合施設(株)は、勧告後に複数の揚水井戸の設置、新集排水本管の設置等の対策を行ってきましたが、保有水水位は低下せず漏出発覚後10年以上経過した令和5年12月に「第Ⅰ期埋立地の掘削による改善工事計画書」を千葉県に提出しました。
本改善工事計画書に基づいた掘削による改善工事が開始して2年以上経過していますが、小規模な試験掘削にとどまっています。
本稿では観測井戸の塩化物イオン濃度の著しい上昇に関する解説及び本掘削改善工事の現状と今後の課題等を説明します。
2.観測井戸の塩化物イオン濃度上昇の状況
千葉県のホームページ(以下、HP)で公開している第Ⅰ期処分場の周辺に設置した観測井戸等の塩化物イオン濃度の推移(2022年4月~)を図-1に示します。
本廃棄物処分場のように産業廃棄物及び一般廃棄物を埋め立て処分している管理型廃棄物処分場内の保有水の塩化物イオン濃度は一般に数千mg/L程度と高く、観測井戸において塩化物イオン濃度を測定することは保有水の漏出をキャッチするための指標項目となっています。観測井戸No.1の塩化物イオン濃度の値は2024年12月頃より250~880mg/Lと異常に高い値を示しています。この地域で汚染の無い地下水(飲用井戸原水:10mg/L以下)と比較すると30~120倍の値であり、浸出水が漏洩していることを示しています。
2025年10月の観測井戸No.1での塩化物イオン濃度880mg/Lは平成24年に千葉県の立入調査により第Ⅰ期処分場からの大規模な漏出が発覚し、廃棄物の搬入停止及び改善を行うように勧告が出された当時よりも高濃度です。
このような状況においても、事業者(新井総合施設)及び千葉県は平成24年に発生した漏出事故時に土壌中に溜まった浸出水が流れ出しているとの技術的にはあり得ない説明を繰り返しています。(図-1参照)

3.観測井戸の塩化物イオン濃度から浸出水混入量の算定
本廃棄物処分場は管理型廃棄物処分場であり、可燃ごみ焼却灰やポリ塩化ビニル(塩素を含有するプラスチック)などの産業廃棄物焼却灰、各種汚泥等に由来する塩化物イオンを高濃度に含む浸出水が発生します。
千葉県のHPによると第Ⅰ期処分場から発生する浸出水の塩化物イオン濃度は2,000~3,500mg/L程度となっています。したがって、第Ⅰ期処分場の浸出水の塩化物イオン濃度と同じ月の観測井戸の塩化物イオン濃度を比較することにより、観測井戸の地下水にどの程度の浸出水が混入したかが計算できます。

図-2に地下水及び第Ⅰ期処分場浸出水の塩化物イオン濃度より算出した、観測井戸No.1地下水の浸出水含有率[計算式:(観測井戸の濃度÷浸出水の濃度)×100]を示します。本グラフが示すように観測井戸No.1の地下水は2025年10月37%、11月21%、12月29%の廃棄物処分場より漏出した浸出水を含有していることとなり、地下水の汚染は著しく処分場周辺の井戸水を飲料及び生活関連に使用することは当然不適格となります。
2025年7月の地下水への浸出水混入量が著しく高い値(87%)となっているのは、浸出水中の塩化物イオン濃度が380mg/Lと著しく低い値となったことに由来しています。7月の浸出水の数値が著しく低くなった原因として千葉県は、当日降雨があり雨水が混入したとの説明を行っていますが、これまでにこのような降雨による著しい濃度低下という現象は生じていないことからも、他の原因に由来するものと思われ原因の解明が望まれています。
4.観測井戸の塩化物イオン濃度は漏洩発覚後今でも低下していない
千葉県のHPに本廃棄物処分場の周辺に設置した観測井戸及び処分場底面部の地下水を集水した地下集水施設などから採取した水の塩化物イオン濃度から漏出の有無をモニタリングした結果を毎月公表していますが、第Ⅰ期処分場の複数の観測井戸等からは高濃度の塩化物イオン濃度が長年にわたり検出されています。

図-3に2015年から2025年度までの各年度の塩化物イオン濃度の最高値を示します。処分場があるこの地域は小高い尾根に接しており名水の里として知られる久留里の地下水の透水層である梅ヶ瀬層の最上部に位置し、本廃棄物処分場から有害物を含有する浸出水が漏出することにより地下水が汚染されるこことなります。
久留里地区の汚染のない地下水の塩化物イオン濃度は5~10mg/L程度であることから、観測井戸等からは20~100倍の濃度が毎年検出されています。
特に2025年度は観測井戸No.1から880mg/Lの濃度が観測されています。これは平成24年に大量の浸出水の漏出が発覚し早急に原因調査及び改善をするようにとの勧告が出された時よりも高濃度であり、周辺環境の汚染がさらに進行していることが危惧されています。
5.第Ⅰ期処分場浸出水の水質について
第Ⅰ期処分場から発生する浸出水の水質測定結果は、千葉県がHPに毎月掲載している観測井戸のモニタリング指標である塩化物イオン濃度及び電気伝導率以外は公表していません。
埋め立てられている廃棄物(産業廃棄物及び一般廃棄物)は水銀、カドミウム、鉛などの重金属、ダイオキシン類等の有害な化合物を含有していることは疑いの無いことですが、事業者(新井総合施設)は浸出水の有害物に関する水質を明らかにしていません。
観測井戸No.1から高濃度の塩化物イオン濃度が検出されていることから、千葉県は昨年(2025年)原因の究明を求める新たな指導を事業者に出しました。これにより、昨年9月に一般財団法人千葉県環境財団より「令和7年8月19日水質調査報告書」が出されました。この報告書では、観測井戸No.1の地下水の有害物質に関して[・・地下水の水質汚濁に係る環境基準28項目及び有機リン化合物の合計29項目のうち、砒素が0.013mg/L、ふっ素が0.1mg/L及びほう素が0.3mg/L検出された。]と記載しています。
観測井戸により漏出を検出した場合、漏出個所、漏出量等を調査して対応すべきですが、観測井戸の水質と基準値を比較しても問題の解決にはなりません。また、浸出水の水質汚濁物質であるBOD(生物化学的酸素要求量)及びCOD(化学的酸素要求量)は以下のようであったと記載されていますが、水銀、カドミウム、鉛などの重金属および有害化合物等の測定結果の記載はありません。(表-1参照)
表-1.第Ⅰ期処分場浸出水の水質分析結果
| 項目 | 第Ⅰ期処分場浸出水(原水) |
| BOD*1 | 36(30) |
| COD*1 | 87(87) |
*1:令和7年8月19日、()内は令和7年1月9日水質調査結果
BODとは生物が水中にある有機物を分解するのに必要とする酸素の量を表します。BOD10mg/L以上では、河川中の酸素が消費され、悪臭の発生など嫌気性分解に伴う障害が現れ始めます。上水道水源としては、BOD3mg/Lを越えると、一般の浄水処理方法では処理が困難となるとされています。
河川の環境基準を定める御腹川の類型はA(基準値2mg/L)、大寺浄水場がある小櫃川下流はB(基準値3mg/L)であり、浸出水がいかに汚濁されているかがわかります。(図-4参照)

6.「第Ⅰ期処分場改善工事計画書」の概要
千葉県が第Ⅰ期処分場の改善を求める勧告(平成24年3月30日付け「産業廃棄物の適正管理について(勧告)」)を出したのに対して、10年以上経過した令和5年12月に事業者(新井総合施設)から「第Ⅰ期埋立地改善工事計画書」が千葉県に提出されました。
本改善工事計画書は3ページで、概要のみをまとめたものであり詳細な記載はありません。改善工事の目的として、[・・廃棄物及び中間覆土を掘削しながら、埋立地内部の保有水位低下及び固結し保有水の移動性が小さい箇所について滞水エリアの解消を模索する。]と記載されています。
本改善工事計画書は以下の3段階を設定しています。
第1段階:埋立地内部の水位低下
第2段階:保有水の移動性が小さい箇所の滞水エリアの解消
第3段階:埋立地の性能向上
また、[第2及び3段階については、第1段階における対策の効果や、把握した埋立地の状況を確認し、経営状態を踏まえ、経営状況を損なわないよう計画を検討する]とされ、事業継続において経営を損なうような大規模改善は行わないと宣言しています。
本改善工事計画書の工程表は第1段階(埋立地内部の水位低下)が令和5年から令和10年までとされていますが、第2段階及び第3段階は開始及び終了の年月が明確に記載されていないため実効性のないものとなっています。
7.第Ⅰ期処分場改善工事の進捗状況
これまでに行なった掘削改善工事は2か所で第Ⅰ期処分場の天端部から重機を用いたオープンカット工法で掘削を行い掘削面の状況の観察及びメタンガス、硫化水素の発生等の測定を行っています。第1回掘削は深さ3.5mで第2回掘削は深さ8.5mです。 (図-5参照)

第Ⅰ期処分場の天端部は標高212.5mであり保有水水位は標高206m程度であるため、第2回掘削により辛うじて保有水水位の深さに到達した段階であり、埋め立てた廃棄物の性状などから本格改善工事に有効なデータ及び今後の対応等に関して、現在のところ期待のできる成果は全く明らかになっていません。
掘削部の底面部には降雨時に雨水が溜まり埋め立てた廃棄物層の透水性は非常に低く、集排水管など排水設備及び揚水管等を新たに設置するなどの対策では保有水水位の低下は期待できないことがうかがわれています。
本掘削工事で第Ⅰ期処分場より第Ⅲ期処分場にトラックにより移動した廃棄物の量は掘削開始から2年以上経過していますが約2,000㎥(処分場埋立量の約0.2%)であり、このペースで進めていくと第Ⅰ期処分場(埋立量約100万㎥)の廃棄物を全量掘削除去するには約1,000年かかることとなります。
したがって、本掘削改善工事は単に行っていることを示すことにより、指導監督を担う千葉県及び地下水等の汚染により生活が脅かされる恐れのある住民に対する言い訳程度の行動としか考えられません。
8.おわりに
君津地区4市(君津市、木更津市、袖ケ浦市、富津市)他30万人以上が利用する水道水の水源地(御腹川の源流)であり、名水の里「久留里」の地下水の水源地に築かれた本廃棄物処分場は、過去に多くの重大なトラブルが発生しており度重なる指導・勧告が出されていますが、本格的な改善がなされずに第Ⅰ期処分場は現在も搬入停止が続いています。
本廃棄物処分場は管理型であり、鉛、カドミウム、水銀など有害な重金属やダイオキシン類などの有害化合物、腐敗しやすい有機汚泥などが埋め立てられるため、保有水が外部に漏れだすことは直ちに周辺の環境を汚染することとなります。
したがって、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)では保有水の漏洩があった場合のモニタリング用として周辺に観測井戸を設置することとし、モニタリング指標である塩化物イオン濃度等の上昇があった場合は直ちに原因を究明して改善を行うことが義務付けられています。
本廃棄物処分場は関東地区でも内陸型としては最大規模(Ⅰ~Ⅲ期の合計埋立容量:426万㎥)となる巨大廃棄物処分場ですが、保有水水位の上昇及び観測井戸からの漏出を示すモニタリング指標である塩化物イオン濃度の継続的な上昇など、重大な欠陥を有しているのにかかわらず改善されずに放置状態となっています。
本廃棄物処分場の建設を許可した千葉県は適切な指導及び監督を行うべきですが、この状態においても指導・勧告を繰り返すのみでより強制力のある改善命令等は出さずに有効な対策を講ずることなく、さらにⅣ期の増設計画を受理し、現在環境アセスメント手続きが進められています。
このような状況において、本廃棄物処分場がある水源地の水を水道水として使用している住民及び久留里の地下水を農業や酒造などに活用している方々は、安全な生活を守るために本廃棄物処分場が直ちに改善されるべきであるとの声を上げることが望まれています。
