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「廃棄物処分場に関する各自治体の水道水源保護条例等の取組」

野々山 登

目次

1.はじめに

 産業廃棄物最終処分場(管理型最終処分場)は有害な重金属(水銀、クロム、カドミウム等)、ダイオキシン類などの有毒な化学物質、放射性物質など各種有害物を含有する産業廃棄物(汚泥・焼却灰・ばいじん等)を埋立処分する施設であり、保有水の漏出により周辺の地下水及び河川水等を汚染することとなる。

 このため、産業廃棄物最終処分場の建設計画においては、環境(特に地下水、河川水)の汚染を防ぐことを最重要課題として用地の選定を行うことが望まれている。

しかし、民間の事業者による産業廃棄物最終処分場は廃棄物収集の利便性、用地の価格、自治体による有効な環境施策の有無などを考慮して用地の選定がなされている。その結果、産業廃棄物最終処分場としては適していない地形や地質を有する場所や水道等の水源地などに建設され、重大な環境汚染問題を発生させる原因となっている。

 産業廃棄物最終処分場の建設及び稼働の許可は廃棄物処理法により都道府県知事が行うこととなっている。しかし、水道法により安全な水道水を供給する責任は自治体(市町村長等)にあるため、多くの自治体が水道水源保護条例などを制定して安全の確保を進めている。本稿では、自治体による水道水源の保全に関する取組み状況及び水道水源保護条例の制定の動向及び条例の内容などを紹介する。

2.水道水源の保全に関する取組み状況

 環境省他が公開している「水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律」に関連して行った「水道水源の保全に関する取組み状況調査について」(平成19年3月)によると、自治体により実施されている取組みとしては、水道水源の保護や地下水保全等の条例・要綱の制定、水源林の整備等のための基金の運営、上流の水源涵養林の取得や管理、流域の関係者等による流域協議会、さらに水源上流域の合併処理浄化槽等の排水処理施設の整備への援助等の取組みが行われている。

その中でも最も多く採用されているのは流域協議会の設置・参加で348市町村等で、水源保護の条例は160市町村等となっている。

また、水源涵養林への関与も130市町村等と多くの自治体が積極的に水道水源を守るための対策を講じていることが伺われる結果となっている。なかでも、積極的に水道水源保全対策を行っている横浜市は水源保護条例、水源保護要綱等、基金の制定、水源涵養林への関与、流域協議会、上流排水処理施設への援助等を実施している。

表-1.水源保全に関する内容別の取組み状況

・国土交通省、環境省:「水道水源の保全に関する取組み状況調査について」(H19.3)より

東京都においても水源保護要綱等、水源涵養林への関与、流域協議会により水道水源の保護を進めている。特に、多摩川の上流部の約25,000haの森林を水道局が120年以上にわたって継続的に管理を行い、豊富な水が蓄えられる健全で緑豊かな水道水源を確保するための各種活動を行っている。表-1に水源保全に関する内容別の取組み状況及び表-2に千葉県内他の市町村別の取組状況を示す。

表-2.水道水源保護に関する市町村等別の取組状況

・国土交通省、環境省:「水道水源の保全に関する取組み状況調査について」H19.3 より

3.「水道水源保護条例」の歴史と概要

「水道水源保護条例」は、主として市町村が水道水源の保全のために廃棄物最終処分場など水質汚染が危惧される一定の事業所・施設の設置を規制、又は施設からの排出水の水質などを規制している。また、水道水源が地下水である場合は、地下水採取の規制を行っているものもある。なお、一部の都道府県においても「水道水源保護条例」を制定している。

水道水源保護条例の歴史は古く、水道法(昭和32年)制定前後から制定されている。昭和62年までに約40程度の条例が制定されたが、昭和63年から平成に入って、制定件数が急増した。その契機となったのは、水道原水の取水口上流部で産業廃棄物処分場の建設が計画されたことに端を発し、隣接する久居市及び美里村とともに昭和63年に制定された三重県津市の津市水道水源保護条例(昭和63年2月8日公布)とされている。

昭和63年には、三重県内では10市町村で条例が制定され、さらに産業廃棄物処分場やゴルフ場等を規制対象として、水道水源の保全の観点から、条例の制定は全国の市町村に広がっていった。 

なお、令和7年7月1日時点で、インターネットで例規集を公開している自治体の条例は、水道水源保全、水道水源保護、水道水源の水質の保全等と、条例名に「水道水源」を冠する条例は125ヶ所とされている。

水道水源保護条例は、次の2つのタイプに分かれる。

  • 水道水源地域で一定の事業所の施設の設置を規制する条例(立地規制型)
  • 水道水源地域で一定の事業所からの排出を規制する条例(排出規制型)

こうした条例が制定される背景として、水道の事業者である市町村は清浄で安全な水道の水質を確保し、住民の健康を守るために水源の保全を図る必要があるが、水道法は水道の水質基準、施設基準、水道事業等について定めているものの、水源地等に関する規定はなく、水質汚濁防止法、特定水道利水障害の防止のための水質の保全に関する特別措置法、水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)等では、水道水源の保護を十分に図ることができない面があることがあげられる。

4.立地規制型の水道水源保護条例

水道水源保護地域において、一定の対象事業を行おうとする者に、事前に市町村長(管理者)等と協議を義務づけ,規制対象事業場と「認定」されたものは設置を禁止し、違反した者には工事の中止命令等を行い、さらにそれに違反した者には罰金に処するとするものである。

対象事業としては、産業廃棄物処理及び処分業、ゴルフ場、砕石業、砂利採取業等がある。「認定」の代わりに、「判定」、「同意」、「許可」等とするものもある。

立地規制型条例を最初に制定したのは津市水道水源保護条例(昭和63年制定)であり、全国市町村における同種の条例のモデルとなった。立地規制型条例は、特に廃棄物処理法との関係を巡って、裁判で争われる事例がたびたび生じている。

1)三重県津市の「津市水道水源保護条例」

本条例は、「水道法・・の規定に基づき、本市の水道に係る水質の汚濁を防止し、清浄な水を確保するため、その水源の保護及びかん養を図り、もって住民の生命と健康を守ること」を目的としている。

そのうえで、①上下水道事業管理者は、市の水道に係る水源(取水施設及び貯水施設に係る周辺の地域で、水道の原水の取入れに係る区域)及びその上流地域において、審議会の意見を聴き水源保護地域を指定することができる。②水源保護地域において砕石業、砂利採取業または産業廃棄物処理業を行おうとする者は、あらかじめ管理者に協議するとともに関係地域の住民に対する説明会の開催をしなければならない。③管理者は審議会の意見を聴き、規制対象事業場(水道に係る水質を汚濁し、又は汚濁するおそれのある工場その他事業場)と認定したときは、事業者に通知する。④水源保護地域内において規制対象事業場を設置してはならない。⑤管理者は、違反して建設工事を行った者に対して、工事の一時停止、中止等を命ずることができる。⑥一時停止命令、中止命令等に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処するなどとしている。

このように津市水道水源保護条例では、管理者が規制対象事業理者と認定した場合、規制対象事業場を設置してはならないと規定している。平成29年以降制定された立地規制型で津市水道水源保護条例タイプのものとしては、南伊勢町水道水源保護条例、鋸南町水道水源保護条例、大子町水道水源保護条例などがある。

2) 長野県箕輪町の「箕輪町水道水源保護条例」

対象行為として、ゴルフ場の建設、廃棄物の保管及び処理場の設置、油脂類の保管及び販売、建築物等の施設の設置及び土石類の採取その他の土地形質の変更を掲げている。水道水源保護地域内において、対象行為をしようとする事業者は町長に協議し、その同意を得なければならないとし、同意には必要な限度において条件を付することができるとしている。

3) 岐阜県東白川村の「東白川村水道水源保護条例」

特別水源保護区域においては、規制対象事業を禁止し水源保護地域(村の水道の取水に係る水源地域で、村長が指定する区域)においては、林業経営に関連する建物以外の建物等建築事業及び廃棄物処理事業については禁止し、それ以外の規制対象事業については水源の汚濁や自然環境を損なうことがないものとして許可したもの以外は禁止している。

許可については、自然の変改を最小限にとどめる条件を付して許可することができる。また、水源保護地域内の土地所有者は、水源保護地域内の土地について土地売買等の契約を締結しようとする場合は、あらかじめ村長に届け出なければならないとしている。表-3に代表的「立地規制型」水道水源保護条例の概要を示す。

表-3.代表的「立地規制型」水道水源保護条例の概要

5. 排出規制型の水道水源保護条例

排出規制型の条例は市町村長が指定した水源保護地域において、一定の対象事業を行おうとする者に市町村長に対する協議、または届出を義務づけるが、認定された規制対象事業場の設置を禁止するなどの手法をとらない。

排出基準等を設定し、当該排出基準等に適合しない場合は計画変更命令等を出し、排出基準等を順守させようとするものである。この排出規制型の条例として全国で最初に制定されたのは、伊東市水道水源保護条例とされている。また、木更津市が千葉県内では初めての制定した「木更津市小櫃川流域に係る水道水源の水質の保全に関する条例」(1994年12月公布)も排出規制型の条例に属している。

1)静岡県伊東市の「伊東市水道水源保護条例」

本条例は管理者が指定した水源保護地域において、対象事業場(ゴルフ場、リゾート関連事業、砂利採取業、採石業、産業廃棄物処理業等)を設置しようとする事業者は、管理者に事前協議し管理者は事業計画基準に適合しないと認めるときは、計画変更命令を出し、計画変更命令に従わない場合等は一時停止命令を出し、その旨公表することができるとしている。罰則規定はない。

2)「木更津市小櫃川流域に係る水道水源の水質の保全に関する条例」

 本条例制定の経緯は、以下のようである。1990年産業廃棄物処理施設の撤去運動を継続していた住民組織が、小櫃川上流にある安定型産業廃棄物処分場の放流水からシアン及び砒素等の有害物が検出されたことを公表した。さらに、小櫃川下流には君津地区4市(木更津市、君津市、袖ヶ浦市、富津市)他に水道水を供給する大寺浄水場及び十日市場浄水場があることから、これらの住民が中心となり1万8千人の署名を添えて木更津市に陳情を行った。翌1991年2月木更津市水道水源保護問題協議会が設立され検討が進められた。その後、市環境課を中心に条例案が検討され、1994年12月市議会で可決、1995年4月に施行された。

本条例の目的として、「小櫃川流域に係る水道水源の水質の保全を図り、もって現在及び将来にわたって市民の健康で文化的な生活を確保すること」と定められ、目的規定に地域指定、排出基準の設定、規制処置等を規定していることが特徴となっている。地域指定として市長は「木更津市小櫃川流域に係る水道水源保全審議会」の意見聞いた後、水質を保全することが必要と認められる地域を「水道水源保護地域」として指定すると定められている。(図-1参照)

図-1.「木更津市小櫃川流域に係る水道水源の水質の保全に関する条例」

の水道水源保護地域

 対象事業場は、①ゴルフ場、②一般廃棄物及び産業廃棄物最終処分場であり、対象事業場を設置又は構造等の変更をしようとする者は市長に届出なければならない。「排水基準」を定め対象事業場の排出水が排水基準に適合しないと認めるときは計画変更を命ずることができる。

さらに排水基準に適合しない排水等を排出したとき及び排出するおそれがあると認められるときは、改善命令を出すことができる。また、必要な限度で対象事業者に排出水の汚染状況等の報告を求め、立入検査ができると定められている。

 住民の参加等に関しては、対象事業場の設置、構造等の変更の届出に際して、事業内容、水質への影響等について説明会を開催し、住民(計画地域周辺2Km以内)に説明しなければならず、住民の意見があった時は届出に添付することとなっている。

 広域への対応として、汚染処措置の防止として関係行政機関の長、地方公共団体の長に対して意見を述べ、適当な措置を要請できると定められている。

3)千葉県内その他の動向

 小櫃川流域では木更津市が最も下流に位置しており、木更津市の規制だけでは水源の汚染を防ぐことはできないとして、上流部に位置している袖ヶ浦市、君津市に対して条例の要請を行い、その結果1995年に相次いで水道水源保護条例(「袖ケ浦市小櫃川流域に係る水道水源の保全に関する条例」及び「君津市小櫃川流域に係る水道水源の水質の保全に関する条例」)が制定された。

表-4.「君津市小櫃川流域に係る水道水源の水質の保全に関する条例」の概要

 条例の構成はいずれも、木更津市と同じ排水規制をとり、規制対象ははゴルフ場、一般廃棄物最終処分場及び産業廃棄物最終処分場等である。(表-4参照)

 また、隣接しているが水系の異なる市原市でも市原市水道水源条例を1995年に制定している。市原市水道水源条例では「対象事業場」は産業廃棄物最終処分場、砂利採取場、ゴルフ場であり、排出規制及び立地規制を併せ持つ型となっている。

立地規制としては事業予定者は届出後、市長と協議し、その同意を得なければ対象事業場の設置及びそれに関連する工事を行うことはできないと規定されている。

6.終わりに

 水道水源保護条例が多くの自治体により制定されていることは、水道水源地に有害な産業廃棄物及び一般廃棄物を埋立処分するための廃棄物最終処分場を建設・稼働することにより、水道水源地の河川水及び地下水が汚染され、水道の水質を清浄に維持し安全な水道水を供給することが阻害される危険性が生じるためである。

 また、廃棄物処理法により廃棄物最終処分場の建設・稼働の許可権が都道府県の長にあり、水道法により安全な水道水を供給する義務を有する自治体(主に市町村)の意見が受け入れられていない現状を変革すべきとの意向の表れと考えられる。

 すなわち、安全な水道水を供給する義務を有する市町村長には当然、水道水源が汚染されないための対策・制約等を講じる権利を有している。したがって、法的にも廃棄物最終処分場の建設・稼働の許可権を有する都道府県知事は市町村長の了解を得ることが必須となる。

ただし、現状では水道水源保護条例を制定しても条例が立地規制を有する内容であり、協議会の設置、水源涵養林への関与等が十分に機能しないと水道水源地に廃棄物最終処分場を建設することを阻止できない。このことは、君津地区の水道水源地に築かれた巨大な産業廃棄物最終処分場である「君津環境整備センター」の例からも明らかである。

木更津市が千葉県内で初めて水道水源保護条例として「木更津市小櫃川流域に係る水道水源の水質の保全に関する条例」を制定し、翌年には小櫃川の上流に位置する袖ヶ浦市及び君津市が水道水源保護条例を制定したことは、かつて環境保全のために活動した多くの住民等の努力の結果である。

したがって、水道水源地の汚染が危惧される現状を打破するために、我々には水道水源保護条例を有効なものに改善するなどの行動が求められている。

[参考資料]

1).国土交通省、環境省、「水道水源の保全に関する取組み状況調査について」(平成19.3)

2).一般財団法人地方自治研究機構、「水道水源保護条例」(令和7.12)

3).「公共政策」2000、「産業廃棄物処理をめぐる地方自治体の法政策による対応」、内藤悟

4).木更津市、君津市、袖ヶ浦市、市原市他の水道水源保護条例

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