シンガーソングライター 松本佳奈(木更津市在住)

雨が降ると、築60年平屋の瓦屋根はトットットットッ、ポツポツポツポツと音を立てる。まるで打楽器を叩くような規則的な響き。土砂降りのときなんか、一粒一粒の振動を感じるほど。
雨は地面にしみ込み、山に染み渡り、岩の隙間を抜けて湧き出し、川へと流れ込む。
私が暮らしているのは千葉県木更津市の真里谷という地域です。もともとは海側の生まれですが、七年前、長男の出産を機に移り住みました。まさか同じ市内に、猿やイノシシが日常的に現れる場所があるとは。
この地に住むようになってから、日々の暮らしの中で自然とのつながりを強く感じるようになりました。朝、家の周りを歩けば、朝露で足首がびっしょり濡れる。刈った草の蒸れた匂い。カエルの鳴き声が四方から聞こえる。見上げた夜空に散りばめられた星々の輝き。季節ごとに山の表情は変わり、春は山桜、夏はセミの大合唱、秋は紅葉、冬は霜柱と、五感で季節の移ろいを感じながら暮らしています。
時はさらに遡り、十年前。私はひょんなことから久留里の湧水を巡るツアーに参加しました。当時29歳。自宅から車で30分ほどの場所にこんこんと湧き出る水があり、誰でも自由に汲んで飲めることに驚きました。
このときふと疑問が浮かびました。こんなにも近くに水が湧いているのに、なぜ私たちはスーパーで、148kmも離れた南アルプスの水を買うのだろう、と。雨が降り、地面に染み込み、湧き出て川となって私たちの飲み水になる。そんな自然と実際の暮らしとが、大きく乖離している気がして。
とはいえ、少しの心がけで自然と共に暮らすことができるのではないか?
例えば地域の農家さんから野菜を買う(農家さんと、顔の見える間柄になる)。地元の水を汲みに行く。旬の食材を取り入れた食事をする。
そんな小さな意識の積み重ねが、分断された自然と自分とを繋ぐきっかけになるんじゃないかと思うので、できる限り地元産が食卓に並ぶように工夫しています。何より、旬は美味しい!
今、6歳の長男、4歳の次男、3歳の長女を育てながら思うこと。
私は彼らに、「自然と自分は別々のものではない」と肌で感じて育ってほしいのです。
四季折々の変化、暑さや寒さ、雨の匂いや草花の色。ほんの少しの気温や湿度の変化で生まれる虫が違うこと。若葉のやわらかな感触。ユキノシタの葉っぱをちょっと摘んで天ぷらにする。そんな経験があれば、山や川に平気でゴミを捨てる大人にはならないのではないか…。
実際、それぞれがどのような道を選ぶかはわかりません。けれど、幼い頃の五感の記憶が、彼らの生き方を形作る手がかりになってくれることを願いながら、この里山で暮らしています。
今日は2025年3月2日。夏のような暑さでした。しかし明日はなんと雪が降るそうです。今のうちに、灯油を買い足しに行ってきます。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
【プロフィール】👈

1985年 ⽊更津市⽣まれ
ピアノ弾き語りシンガーソングライター
ドラマーであり映像作家の夫と3⼈の⼦どもたちと、庭にサルやイノシシが訪れるような⾥⼭の古⺠家で、太陽と共に起き太陽と共に寝る⽇々。旬の野菜を⾷べること、⽣き物を観察すること、読書が好き。
幼い頃、家庭内で対立する母と祖母の板挟みになったり、いじめがきっかけで不登校を経験したことなどから、自分自身の気持ちを曲に綴るようになる。
2008年より都内を中心に全国でピアノ弾き語りの演奏活動を始める。2010年には地元木更津に拠点を移し、田んぼや森、廃業した銭湯やお寺などでイベントを多数企画。
これまでに7枚のアルバムをリリース。
音楽活動と並行して、「それぞれが自然体でいられる場所をつくる」をテーマに、木更津駅東口階段下「駅の図書室FLAT」の運営や、子どもたちがありのままの感性を表現できる「違いを楽しむアートワークショップ」を企画している。
一般社団法人アートオブダイアログ代表理事
富来田小学校校歌作曲
木更津市制施行80周年記念ソング制作
木更津ふるさと応援団



